そして徐々に闇に慣れた目で自分の体を見つめた多恵は風を切るような声にならない悲鳴を上げた。

夕食時から外はかなり吹雪いている。雪が風と共に吹き付ける不気味な音がペンション内にもはっきり聞こえるぐらいである。

当然多恵の微かな悲鳴はベッドに飛び込んだ弓暢には聞こえなかったが、弓暢が駆け付けて来ない事、そして泰明が助けに来ない事が多恵には信じられなかった。

(何よこれ…嘘でしょ…どうして)

多恵の腹部には棒のような物が深々と突き刺さっていた。

実際それは包丁の柄だった訳だか、刃の部分は全て多恵の肉体に埋まっていた。

震える手でそれを掴んだ多恵は引き抜こうとして、あまりの激痛に激しく嘔吐した。

吐瀉物が気管に詰まり息が出来ない。咳込もうにも多恵にそんな力は残ってなかった。