『あの…奥さん、旦那さんの所に帰らなくても…』

『言わないでよ、あんな男。どうしてパパもあんな奴が気に入ったのかしら』

別に父親の言うなり…という訳でもない。しかし多恵のこの容姿だ。

ずいぶんとエステにも通ったし整形手術も受けた。

まあ十人並にはなったかもしれないが、結局良い寄ってくる男達全てが自分よりも金に興味を持っている事ぐらい多恵にだって分かる。

だから多恵は逆に男を利用する事にした。財産目当てならそれで良い。

せいぜい馬鹿な夢を見て私に尽くすがいい。

多恵にとって男はただの使用人だ。

泰明は父が取引している銀行の融資をしているのだが、巨額の債権を焦げ付かせてしまった。

(馬鹿な男…私が知らないとでも思っていたのかしら)

回収不能になった取引先は多恵の父親が潰した。当然裏事情も知り尽くしていた。