なのに尚人は東京の大学に行くと言ってきかなかった。

何が尚人を東京にかりたたせるのか? きっと悪い友人か女友達にでも影響されたのだろうか…と真剣に悩んだが、尚人のあまりの哀願に仕方なく許可した。

高校に入って以来ろくにミサ子と口をきかなかった尚人が、これほど頭を下げるのだ。

尚人の将来にとっても都会の大学に行く事は必ずプラスになるだろうと考え直したミサ子は貯金をかき集めて学費を工面した。

部屋数7室のペンションの稼ぎはしれていて、生活は決して楽ではなかったが尚人の将来を楽しみにミサ子は毎月仕送りをした。

その尚人が何の相談もなく大学を辞めてしまった。

ミサ子は怒る気力よりも自分の息子が分からなくなった不安で途方にくれた。

その矢先、本人が帰って来たのである。

あっという間にシチューを平らげた尚人が初めて口を開いた。