自分が究極に贅沢で幸せ過ぎるのだろうと分かっていたが、180度違う世界に放り込まれた江里子は暗闇でもがく子供のようであった。

雄一郎について廊下の奥の自分達の部屋に入りながら江里子はそっと下腹部の辺りを押さえた。

『なかなか良い部屋だね。江里子さん今日はどうする?僕はゲレンデに行こうと思うんだけど…』

『は、はい…私は少し疲れたので部屋で休んでます』

結婚数ヶ月経つというのに未だに雄一郎に名前を呼ばれるとドキッとする。

しかしそれは愛する男に対する胸の高鳴りではなく、無力な自分が全く抵抗出来ない大きな存在に対する物だと江里子は分かっていた。

スキーが趣味の雄一郎も全くの初心者である江里子が一緒では満足に滑れないので内心ホッとする。