『部屋の鍵貰ってきたよ、少し休むかい?』

雄一郎が優しい眼差しで近付く。その優しさが江里子には痛かった。

雄一郎は申し分ない。

江里子には勿体ないぐらいだ。

一流大学を出て都内有数の進学高校の教師をしている雄一郎は長身で甘いマスク、女生徒にも大変な人気で、その彼が何故自分を選んだのか江里子にもよく分からない。

同じ高校の冴えない事務員で雄一郎を遠くから見つめる『その他大勢』の一人だった江里子が初めて食事に誘われたのは昨年の夏である。

それから江里子の意思とは関係のない強い力が働くように話が進み昨年11月に二人は結婚した。