『仕方ないよ、スキーシーズンだからね。ホテルは取れないよ。なんなら多恵さんもスキーしない?レンタルしてくるけど…』

『けっこうよ』

言い終わらないうちに多恵はさっさと中に入ってしまった。確かに小さいが小綺麗な感じの良いペンションだ。

なかなか穴場的な雰囲気でこういった所ほど料理が上手かったりする。

(だから金持ちのお嬢さんは嫌なんだよ)

思ったつもりが少し声に出してしまったらしく多恵が振り返った。

幸い内容までは聞き取れなかったらしく探るような目を泰明に向けたものの気付かなかったようだ。

つまらない事で怒せたら大変だ。この結婚には泰明の命運がかかっている。

相変わらず薄っぺらい作り笑顔を向けながら泰明は『セカンド』のロビーへと入っていった。