しかしそれは同時に泰明が一生陣内家に服従する事を誓うという事であった。

この先一生、多恵にこき使われながら生きていくのかと思うと目の前が真っ暗になるが、路頭に迷い全てを失うよりはマシである。

『さあ、着いたよ多恵さん。今夜はあそこのペンションに泊まるからね』

精一杯の笑顔をしたつもりだったが傍から見れば引き攣っていたかもしれない。

多恵は無言でバスの座席から立ち上がった。

むろん自分のバッグは座席に置きっぱなしである。

泰明は慌てて荷物を抱えると後を追った。

『ちっちゃなペンション…ペンション・セカンドだって名前もダサいわ』

どうしてこの女は年中文句ばかり言うんだろうと心の中で悪態を付きながら泰明は愛想笑いを浮かべた。

此処で多恵の機嫌を損ねたら元も子もない。