『そんな女じゃないもん』

一ヶ月五万で借りているワンルームのドレッサーの前で未音はさっきから何度もその台詞を呟いていた。

セミロングの茶髪をブラシでとかしながら少し涙目になる。

互いの部屋で弓暢に求められた事はあったが、あんな場所は初めてだ。

弓暢が自分の事を何時でも何処でも服を脱ぐ女だと思っているような気がして未音は悲しかった。

それにあの電話…きっと和歌山市の奥さんからであろう。

電話の向こうには弓暢の本当の生活がある。電話に出た瞬間、弓暢の顔は夫であり父の表情になっていた。

所詮自分が入り込む事の出来ない世界…弓暢に離婚する気持ちなどサラサラ無い事ぐらい未音にだって分かっていた。