今の未音には、もはや幼稚園児並の知能しかない。

それが回復する事は現在の医学では不可能だった。

一度破壊された人間の脳は新たには回復しないらしい。

自分の名前すら分からない3歳の未音は病院の看護師や医師には一切心を開かなかった。

面会に来た両親や樹にも激しい拒絶反応を起こす。

これ以上の拒絶反応が起これば精神が破壊され廃人になってしまうと医師は皆を説得した。

ただ唯一、未音は康太にだけ心を許した。

康太の事を父親のように慕い、彼の姿が見えなくなると不安で泣き叫ぶ。

ヌイグルミが手放せなくなった3歳の未音はこれから何年たっても3歳のまま肉体だけが年老いていくらしかった。

人間の一生は医師に決められる物ではない、自分で決める物だ…と思っていた康太は、そんな言葉を信じなかったが、例えそうであっても一生を未音に捧げる気持ちでいた。