『クマさん持ってってもいい?』

『いいよ』

何時も抱えている熊のヌイグルミを大切に抱え未音は康太を見た。

『康太、押して!』

優しく頷き車椅子を押す。

こうやって未音を押すのも何度目だろう…授業の合間を縫って毎日のように康太は此処に来ていた。

エレベーターで一階に下りスロープを伝って中庭に出る。

模造の川が作られ自然そのままを醸し出している庭は、患者の精神療法にも効果があるらしかった。

大橋から飛び降り自殺を図った未音は奇跡的に一命を取り留めた。

いや、命が助かったと言えるのか…

未音の希望通り高木ケンジは抹殺されたと言えるだろう。

しかし頭を強く打った未音は緊急手術の甲斐なく、下半身の機能と一切の記憶、社会性を失った。