受話器を置いたミサ子は複雑な気持ちでため息をついた。

尚人に掛かっていた疑惑は解けたのだ。ミサ子の思い込みだったらしい。

それはそれで良かったのだが、それでもミサ子は一時でも我が子を疑ってしまった事に違いはない。

鬼頭は受話器の向こうで全てを話してはくれなかった。

尚人が何故、あの晩死体を発見してウロウロしていたのか…何故大学を辞めたのか、本人の口から聞いたような口ぶりだった。しかしそれはミサ子が自分で息子から聞きなさいと釘を刺されたのである。

確かに尚人の秘密や本心を他人から知らされるのは気分が悪い。

でも尚人が自分に話してくれるだろうか?

尚人が帰ってからというもの、ろくな会話も無いのだ。

大学を辞めた件すら話題に上らない。尚人の口から何か恐ろしい話が出てきそうで、それが怖くてまともに接する事が出来なかった。