結局江里子は雄一郎との生活に慣れる事が出来なかった。

今でも夫が帰って来ると一瞬にして緊張が走る。

雄一郎の態度は結婚してから全く変わらないのだ。未だに毎日毎日違う話題を提供してくれる。

毎日定時に帰ってきて日曜は江里子の腹部を撫でながら英語の歌を歌い、そして庭に花を植える。

酒もタバコもしない。外で遊んでくる事もない。

そんな雄一郎に江里子は申し訳なさを感じながらどうしても心を許す事が出来なかった。

出産にあたっての不安は大いにあったが、それでも子供が生まれれば雄一郎への想いも変化するだろう…と淡い期待を抱いている。

再び大きな陣痛の波が来た。

看護士の指示に合わせて二度短く息を吸い、そして吐く。腹部の大きな塊が徐々に対外へと出て行くのが分かった。