そう思った時だった。

左手で康太につかまろうとした未音は思いがけない強い力で手首を掴んでいる康太の両手を振りほどいた。

確かに未音は笑っていた。

さっきとは違い、とても晴れやかな笑顔で。

『未音ぉぉ!!』

まるで石が水中に沈むように未音は康太から遠ざかっていった。

康太にはまるで未音が手を振りながら暗闇に吸い込まれていく様に見えた。

ようやく白み始めた明け空に康太の哀しい絶叫が響いた。