ようやく目覚めた康太の耳に樹の甲高い声が突き刺さる。

『康太!紗英ちゃんが…紗英ちゃんが!』

何時も冷静な樹のただならぬ気配に康太の眠気は吹き飛んだ。

『どうした樹!落ち着け、紗英ちゃんがどうした?』

『警察病院…直ぐに来てくれ…紗英ちゃんが死んだ…』

『死んだ?』

馬鹿な事をと言いかけて康太は言葉を飲み込んだ。

樹はこんな馬鹿な事を言う人間ではない。

それにこの時間、樹の様子…まさか?

『分かった、未音を叩き起こして直ぐに行く。紗英ちゃんは…助かるかもしれないんだろ?だから祈るんだ!』

『もう駄目なんだよ!俺が部屋まで送っていれば…俺が、俺が!』

電話はそこで切れた。混乱する樹の背後は何やら騒がしかったので、警察病院に居るのは本当だろう。

だとすれば紗英はともかく樹の身は大丈夫だと康太は思った。

紗英が死んだ?

樹は自分が送っていれば…と電話口で泣いていた。

まさか?本当に?