『そ、そうだったかしら…あなた窓から覗いてたの?』

その視線におされてミサ子は思わず目をそらした。

『私も運が良かった。これは偶然知ったんですよ。私の大学時代の恩師がその晩亡くなったんですが…あっ、彼は病死ですよ、殺されたんじゃないですから』

鬼頭の言葉にミサ子の目がはっとしたように開いた。

『お分かりですよね?大阪のS大学、経営学の大牟田教授…あなたもよくご存知のはずだ』

『ええ…知っています。私にとっても恩師ですから。じゃあ、あなた私の後輩なのね。もうちょっと先輩には丁寧に話しなさいよ』

顔を強張らせながらミサ子は軽口をたたいた。しかし喉がカラカラに渇いて声が裏返る。

『おや、奥さん風邪ですか?風邪はひきはじめが肝心ですよ…それでね奥さん、あなた大牟田教授とは卒業後も…正確には10年以上にわたって親交がありましたよね?ああ、良いんですよ喋らなくて。もう調べて全部知っているんですから』