『うん、ごめんね引き止めて』

今度は笑顔で見送る事にする。

弓暢はフロアまで送るという未音の申し出を遮ってエレベーターに乗り込み、そして視界から消えてしまった。

弓暢を見送ってから部屋に戻ろうとすると2部屋隣に住んでいる新婚カップルが仲良く出勤するのに遭遇する。

『おはよう藍原さん』

『おはようございます遠山さん、いつも仲が良いですね』

笑顔で挨拶して自室に入った未音は自分の行動に激しい嫌悪を感じた。

自分はたった今、慶子を殺し目の前の丘に埋めてきたのだ。

あれから未だ数時間しかたっていない。

なのに普段通り笑顔で隣人と接し、挨拶まで普通に交わしている。

自分の中に存在する別の一面を見たような気がして、未音は大きく首を振った。