血しぶきに濡れる顔の中で微笑んだ口からこぼれる白い歯が美しい。

その顔を見て驚きの余り更に目を見開いた紗耶香は数歩後ずさった。

『なあ痛いのか?…どんな気分なんだよぉ…頼むよ教えてくれよ…』

真っ赤なナイフを口で拭いながら泣きそうな声で男が迫る。

(どうしよう今日も録画になっちゃう…帰らなくちゃ…帰ら…)

最後に考えたのは、絵本作家になりたいという夢でも親兄弟や友達の事でもなく今夜のドラマだった。

そして抱きつくように飛び込んで来た男のナイフが、その最後の思考と紗耶香の肉体を切り裂いた。