4階で降りて突き当たりを右に曲がり『藍原』と書かれた表札の前まで来た未音は、すぐ傍らに小柄な見知らぬ女性が立っているのに気付いた。

生活に疲れたような、やつれた印象だが、元は美人だったであろうと推測させる容姿を持っている。

年齢は30〜40歳ぐらいに見えるが、本当はもっと若いような感じもした。

『藍原未音さん?』

『は、はい、そうですけど』

その女性がいきなり自分の名前を呼んだので未音は驚いて返事をした。

『私、弓暢慶子と申します。弓暢英吾の妻です』

表情は穏やかだが、その瞳は勝ち誇ったかのように燃えている。

『えっ?…あ、あの…私は…』

『とりあえず中に入れて下さらない?色々とお話したい事もありますから』