全身に滝のような汗をかきながら泰明は必死で弁明を考えた。

弁解すればするほど窮地に追い込まれる。

婚約者の多恵が不慮の死を遂げた後、多恵の父親であり頼みの綱であった陣内保は、床に額をこすりつける泰明の後頭部を文字通り踏みにじった。

元婚約者という事で社会から抹殺するのだけは許してやる、しかし二度と顔を出すな…と厳命された泰明は5億円の融資をついに言い出せなかった。

縁を切られた人間にどうやって金を貸してくれと言えるのだ。

多恵への愛情など微塵も無かった泰明だが、この時ばかりは犯人を心から恨んだ。

その後あらゆる手段を使って焦げ付きを隠してきたが、ついに社内監査で引っかかってしまったのである。

泰明にも弁解は許されていた。しかし額が額である。

そう簡単に隠せるものでは無い。