此処は長野県警の取調室。

刑事ドラマのようなコンクリート剥き出しで机と電気スタンドを挟んで向かい合う…といった風ではなく普通の事務室である。

傍らには記録をとる係員が一人と部屋の端っこに先程からずっと目を閉じている私服警官が一人。

『何故君は陣内多恵さんの為に助けを呼ぼうとはせず、あちこち動き回ったんだ?』

きっかけが見つからない時の鬼頭は何時も無表情である。

一切の状況や私情、私的判断に惑わされぬよう感情を押し殺している。

そして一度ほころびを見つけると徹底して責め続け、合理的に外堀から埋めて相手を狼狽させる。

しかし今は未だそんな時期ではなかった。

『…犯人を捜そうと思ったんだよ』