尚人はテーブルの上の物には手をつけず、ポケットからクシャクシャになったマルボロを取り出す。

自分にはこれで十分だ。

そのまま永遠とも思われる沈黙が二人を支配する。

口元から一筋のヨダレを垂らした紗耶香は大きく身震いすると、最後の一服を肺に吸い込んだ。

『さてと…私出かける。北詰君どうする?』

紗耶香の言葉に尚人は戸惑った。

紗耶香が何処かに連れて行ってくれる時は尚人の予定もお構い無しに行き先を言って歩き出す。

こうやって『どうする?』と聞かれた時は、このまま紗耶香のマンションで留守番するか、それとも帰るかの二者択一なのだ。

過去の経験でそれがよく分かっている尚人はため息をついて黙りこんだ。