『やっぱり和歌山に帰るの?』

『うん、帰る』

どうして?と聞こうとして尚人は思い止まった。

どうせ何時ものように『あなたには関係ないわ』と切り返されるのが分かったからである。

世間がバレンタインデーで浮かれる2月になっても紗耶香は編入の手続きも就職活動もしていなかったので、薄々感じてはいたが、実際に聞いてみるまでは微かな希望も持っていた。

一糸まとわぬ裸体でソファーに腰掛けた紗耶香はガラスのテーブルに置いた小箱から何時ものように大麻タバコを取り出す。

吸い過ぎではないかと声をかけようとして尚人は再び言葉を飲み込んだ。

こうやって関係を持つようになっても紗耶香は謎の多い女だった。

例の店のドレッド男など男友達は無数にいたが、付き合っている人は居ない筈だ。