匂いは確かに良いが煙草とは別の代物である。

そうしている内に紗耶香の目つきは段々と変わってきた。

まるで寝起きのようなだるい表情になり、尚人を見てはいるのだが、その視線は自分を通り越して空にさまよっている。

尚人は紗耶香に気付かれないよう、煙を肺には入れず、もっぱら吹かす事に専念した。

指先が焦げるのではないかと思うほど根本まで灰にした紗耶香は、名残惜しそうに残りを灰皿に落とす。

最後に燃え尽きる煙まで逃がさず吸い込み紗耶香は目を閉じた。

吹かすのに専念した尚人の分はとっくに燃え尽きている。

『えっと…誰だっけ…北詰君だった?』

『うん』

『初めてでしょ?免疫があるのかしら…結構強い…』

もつれるように声を出す。語尾の方は何を言ってるのか聞き取れない。

吹かすだけとは言っても、口の粘膜から少しずつ吸収したらしく尚人も目が回って来た。

視界をテーブルに落とすと、そのまま吸い込まれそうな錯覚になる。

『そ、そんな事ないよ…少し気持ち悪い…トイレ行ってくる…』

そう言って席を立った尚人の後ろで紗耶香のけたたましい笑い声が店内に響いた。