『そこに置いて』

紗耶香がバッグから大きめの財布を取り出す。

『えっ、前払いなの?だったら俺が…』

慌ててポケットをさぐる尚人を紗耶香が手で制した。

『今日は奢ったげるって言ったでしょ。それに結構高いのよ、この店』

そう言いながら紗耶香は1万円札を2枚男に手渡した。

それを無造作に尻ポケットにねじ込みコーヒーを2杯と10センチ四方の銀色の箱をテーブルに置く。

男がカウンターの向こうに姿を消してから紗耶香は小箱を開けた。

中には茶色の棒が10本ほど入っている。

尚人は最初シナモンか何かのスティックかと思った。

(でも何でこれが2万もするんだよ…?)

不思議そうな尚人を見て楽しそうに微笑みながら、紗耶香は2本だけをテーブルに置いて残りを器用にティッシュでくるむ。

『1本あげる。ちょっとキツイ煙草よ。外国産だから高いの』