…傷だらけで血まみれだったあの人が、この笠井さん。
あの時はよくわからなかったけど、でも、こんなにカッコイイ人だったんだ…。
(どう、しよう…)
忘れかけていた想いが、胸を熱くする。
叶うはずがないと思っていた恋。
もう二度と会えないだろうと思っていた人が、目の前に…。
「龍輝」
ふと、黒髪メガネの人が笠井さんの横に立つ。
「もうすぐチャイム鳴るけど、行かなくて平気?」
…授業開始のベルが鳴るまであと5分。
笠井さんはチラリと時計を見た後、私を見て笑った。
「なぁ、今日俺とサボらない?」
――それは、予想もしてなかった言葉。
教室に残っていた僅かな生徒がざわめき、私の心臓はそれ以上にドキドキと音を発していた。
「せっかくまた会えたんだし、お前のこともっと知りたいじゃん?
だからどう?外でお茶でも飲まない?」
笠井さんはニコニコ顔で、隣に居る十朱さんは呆れ顔。
これ、って…、デートのお誘いってこと…!?
「おいでよ。ね?」
「…っ……」
優しい声に、体が麻痺したようになる。
…笠井さんと行きたい。
私も、もっと笠井さんのことが知りたい。
ゆっくりと、伸ばされた手に自分の手を添え――…ようとした時。
「そういうのは、よくないんじゃないですか?」
凛とした声が教室に響いた。



