「多分、“自分の知らない真由”を知ってる元カレにイラついてるんだと思うよ。
前の男はよくて…ってセリフがもう嫉妬しまくり。
アイツ単純馬鹿だから、真由の言葉を聞く前に“もういいや”ってなっちゃったんだと思う」

「…龍輝さんが、嫉妬…」

「うん」


龍輝さんが、私の元カレに嫉妬…。
だから昨日荒れまくってた、ってこと?


「……でも、さっき見た龍輝さんは全然そんな感じじゃなかったですよね…。
と言うか、いつも以上にニコニコだった気がする…」

「あぁアレは、“俺は別に気にしてねーし?”っていう馬鹿な強がり」

「…そうなんですか?」

「うん、毎度のパターン。
恋愛に関わらず、どんなことでも“気にしてねーから”って無駄にアピールするのがあの馬鹿男の特徴」

「…あはは…」


幼馴染みだけあって、やっぱり詳しいなぁ…。


「…あの、対処法とか、あったりします…?」

「…何も聞かないで馬鹿やってるアイツが悪いんだから、しばらく放っといてもいい気がするけど?」

「…龍輝さんが他の人と楽しそうに話してるとこなんて、これ以上見たくないですよー…」


「…じゃあ、真由の気持ちをちゃんと伝えればいいんじゃないかな。
龍輝をどう思ってるのかとか、キスを拒んだ本当の理由とか、全部話せばきっと大丈夫」


…私の気持ち、か…。


確かに私、龍輝さんに全然何も言ってない。


そうだよね…キスを拒んだ理由を、土曜日にきちんと言えていたら、こんなことにはならなかったんだ。


…うん、全部を龍輝さんに話そう。




「…朔也さん、ありがとうございます。
色々話して、何かがわかった気がします」

「…ん。 俺にはこんなことしか出来ないけど、でも役に立てたのならよかったよ」


朔也さんが、そっと小さく笑う。

そしてそのまま…、私の髪を撫でてきた。




「…朔也さん?」


言葉は無い。

だけど朔也さんは凄く凄く優しい瞳(め)をしていて…、
…無言のまま、髪を撫でる手がゆっくりと頬に移動した。




「……ごめん」

「え…?」

「…触ったりして、ごめん」


「あ…いえ…大丈夫、です…」


ドクン ドクン ドクン....


何故だろう、鼓動が少しずつ速まっていく。




「………」

「………」


ジッと見つめ合う私たち。

その距離が、ほんの少しだけ近づく…。






その、瞬間。




「――…朔ちゃん、それはダメでしょ」




静かな声が体育館裏に響いた。