携帯の着信音が鳴るまでの数時間、
ずっとソファにいた。
帰ってきたままのその姿で、
何もできずに。



・・・・電話が鳴ってる。


ハッとして、鞄から携帯を取りだす。



「もしもし・・・・トーコさん?」


ケイタだ。


「今、アニキ、シャワー浴びてるから。
・・・・大丈夫?ごめんね。」



「こんなこと絶対ないのにさ、
アニキがあんな時間に帰ってくるなんてこと。

なんで、今日に限って・・・・

もしもし?トーコさん?聞いてる?」



「・・・・ええ。」


「いや、ほんと・・・・なんていうか・・・・
・・・・・ごめん。」



「・・・・うううん、いいの。
私こそ・・・・ごめんなさい。」



「トーコさん、
そんなに慌てて帰ることなかったのに。
しかも、自分のこと
『おばさん』とか言うし。」




だって・・・・
そうでなきゃ、私はなんだというの?

ケイタだって、
私のこと、トーコって呼ばなかった。



結局、私はおばさんなのだ。
悲しいけれど、本当のこと。
ケイタといると忘れてしまっていたけど、

おばさん、なのだ。