名前は忘れちゃったけど、その前の席の子が今にも振り向いて文句を言うんじゃないかと、私は気が気じゃなかった。


 ところが、その子の黒髪を輪ゴムでひっつめただけの無造作な後頭部を見ていても、一向にこちらを振り向く気配はなかった。聞こえたと思うんだけどなあ……


「でもさ、例外はいるものよね?」


「例外?」


「そ。女では彩花とあたし。男ではほら、あの二人……」


 恵美の視線を辿ると、廊下側の席から私達を見る二人の男子がいた。私達と同じく、一人は席に座り、もう一人が隣に立ってこっちを見ていた。


「手、振っちゃおうっと」


「ちょっと、恵美……」


 私が止める間もなく恵美が手を小さく振ると、立ってる方の男子がすかさず笑いながら手を振り返して来た。