「でも岩山さんは嫌なんじゃない?」
「い、嫌じゃないですっ」
小夜さんは真っ赤な顔をごまかすように、卵焼きをほおばった。
「そうだ、小夜ちゃん。小夜ちゃんの連絡先も教えてよ」
「え……?」
コウが携帯を手に、身を乗り出した。コウの行動が予想外だったのか、小夜さんは硬直した。
それを見たユズがくすくす笑う。
「小夜さんは、可愛らしいよな。杏奈とは違って」
「私と違ってって、どういう意味よ」
私は笑いながらユズの頬をつねった。
「杏奈の可愛さとは違うって意味だよ」
ユズがそう言って私の頬をつねり返す。
「あー、お二人さん、惚気は二人きりのときにやってな」
小夜さんから連絡先を貰ったコウがおにぎりをほおばりながら、間延びした声でそう言った。
小夜さんがちらりとコウを見て、小さな声を上げる。
「ん?」
「あ、いえ、久島弁護士って自分でお弁当作ってるんですか?」
コウは自分の弁当に視線を下ろして、ああ、とうなずく。
「いや、これは妹が作ってるんだ」
「妹さん?」
「コウの妹は、花嫁修業中なんですよ」
私がそう言う。
「へえ、そうなんだ……」
「そっか、由華ちゃんもうすぐ結婚するんだっけ」
ユズの言葉に、私は少し驚いた。
「ユズはコウの妹さん知ってるの?」
「ん? ああ、幸樹の家に行ったことあるからな」
「へえ」
ライオンみたいなコウの妹って、どんな子なんだろう。
それから、私達はシスコンであるコウをいびり倒すことにお昼の時間を費やした。


