誰かが僕の手を包んでいる。

小さくて、暖かい温もりを感じる。


懐かしい感じ。


「…――母さん……?」


僕はゆっくりと目を開けた。


僕の部屋とは違う。

白い天井。

微かなコーヒーの香り。

頭を少し動かすと、何もない部屋が目に入った。


「ここは……?」


「くぅーん…」

……?くぅーん……?

何だ?

今「くぅーん」って言ったよな?

目の前には茶色い毛むくじゃらに黒い大きな目。



「い、犬?」


僕の目の前には犬がいる。

何で…犬?


目の前の犬はなかなか動かない。

荒い鼻息がかかる。

何がどうなって犬に鼻息かけられてるんだろう?

動きの悪い頭がゆっくりと動き出す。



雨の中、朱里さんを待っていたんだ。寒くて、子供みたいに膝を抱えて…。


どれくらい待ったんだろう?朱里さん、犬を連れて…というより、犬に引きずられて僕の前に来て……


「魔法使いの弟子」


僕はそう言ったんだ。

それから…

それから……




それ…か……ら………?


覚えてなーい!

記憶がない!


もう完全にパニック!

知らない人の部屋で、毛むくじゃらの犬に見つめられて、しかも!

しかも寝てるー!