颯太以外とキスなんてしたことなかった。

1年付き合った田中さんとでさえ……

初恋も、ファーストキスも颯太だった。

颯太以外としたいと思ったこともなかった。


それって変なのかな?


「朱里、僕以外とキスって……」

「したことないの!」


あー!恥ずかしい!

何でこんなこと言ってるんだろう!

恥ずかしくて、顔、あげられないよ。


恥ずかしくて俯く私の耳に聞こえたのは、キュッと水道を止める音。

その直後、


「朱里!」


颯太に抱き締められた。


抱き締められるのは初めてじゃない。

だけど、心臓が痛いほどドキドキしてる。


「僕ね、すごい幸せ。朱里が待っててくれたこと、初めてのキスが僕だったこと。すっごい、幸せ」


……私もね、すごい幸せだよ……

颯太のこと、好きになってよかったって思う。

初めての全部が颯太でよかった。


……とは思うけど、こんなに力一杯抱き締められると……

「く…くるし……」

「あ、ごめん……」


ギュッと回された腕が、颯太の気持ちを教えてくれる。

颯太を待っててよかった。


緩められた腕の中から颯太の顔を見上げると、颯太もじっと私の顔を見つめていた。

吸い込まれそうな茶色の瞳、その瞳を隠すように長く伸びた髪、お人形のように白く透き通った肌。

相変わらずきれいな顔……


「…――颯太……?」


その颯太の顔が次第に近づいてくる。

ゆっくりと……