桜空あかねの裏事情



「確かにジョエルの言う通り、少し悩んでる事があったよ。でも今はもう大丈夫」

「…そうか」


納得した言い草とは裏腹に、観察するようにこちらを見遣るジョエル。
やや矛盾した言葉と行動に、あかねは少し笑みを零す。
いつもより至近距離で、サングラス越しからでもジョエルの瞳がはっきりと見える。
直に見たのは一度だけだが、とても綺麗な紫の瞳で何故だかどこか懐かしいと感じたのを覚えている。


――そう言えば
――ジョエルはリーデルの事
――どう思ってるんだろう。
――やっぱり陸人さんと
――同じように思ってるのかな。
――そもそも何で私を
――リーデル候補にしたんだろう。
――私なら悪くないと
――思ったからって言ってたけど
――本当にそれだけの理由で……


ふとしたきっかけで、些細な疑問が溢れてくる。


「ねぇジョエル」

「何だ?」

「あのさ……」


疑問が喉から飛び出しそうなところで、あかねは途端に口を抑える。

――でも聞いたところで
――どうするの?
――私の想いは揺らぐ?変わる?
――別にジョエルの気持ちを
――知りたくないわけじゃない。
――だけど知りたいと
――素直に思えない。
――どうして……。


「お嬢さん?」


上から聞こえた気遣う声に、あかねはハッとして慌てて首を振る。


「あ、えーと……そう、明日!」

「明日?」

「うん!明日なんだけど、チーム戦が終わったら少し時間をくれないかな」


ただそれだけ告げると、ジョエルは一瞬目を丸くして、不思議そうにあかねを見つめた。


「珍しいな。やはり何かあったのか?」

「ううん。そんなんじゃないよ。ただ、ちょっと…」


――話したいことや
――聞きたいことがあるだけ。


「……分かった」


言葉を濁すあかねに、何を思ったのかジョエルは間を空けながらも承諾の返事をする。


「では私は部屋に戻る。お嬢さんも、今日はもう休むといい。おやすみ」



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