桜空あかねの裏事情


見上げれば二十代くらいの青年が、二階から軽く手を振っていた。
姿を見つけると、結祈はあかねと会った時と同じように彼に一礼した。


「珍しいですね。こんな時間にいるなんて。今日はジョエルと約束があったのでは?」

「そうだったんだけど、見事にすっぽかされてね。やはり約束破りの常習犯の名は、伊達ではないようだ」


一段ずつ階段を降りながらも青年はどこか呆れ顔で、それを見た結祈は申し訳なさそうな表情をした。


「いつもご迷惑をお掛けしてすみません」

「ははっ気にしてないよ。それに君が謝る事でもないしね」


青年は微笑みながら階段を降りると、真っ先にあかねの前まで歩き跪いた。


「え」

「初めまして、可愛らしいお嬢さん。宜しかったらお名前を教えてくれないかな?」

「は、初めまして。桜空あかねです。今日からここでお世話になります」


目の前で跪く青年に若干引きながらも、視線を逸らしながらあかねは名乗った。
栗毛色の髪を揺らし、柔らかな笑みを浮かべるその姿は優雅なもので、紳士的にも見える。
だが一見どこか軽そうにも見え、これが俗に言う優男なのだろうか。
そんな事を思いながら青年に目を向けると、何故か不思議そうな表情でこちらを見上げており、あかねは思わず首を傾げた。


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