「それは失礼したね」
悪びれてそう言う男は、何故かあかねの腕を掴んだ。
あまりにも自然な流れで反応出来なかったものの、ハッと気付いて抵抗する。
「あの、離して下さい」
「ランク的にはC?いや、Bかな。とりあえずこっちに」
「何言って……わっ!」
脈絡のない事を口にする男に言い返そうとすると突然、背後から強い力で引かれる。
バランスを崩して後ろに倒れ込むが、瞬時に誰かに抱えられて衝撃を感じる事はなかった。
「矢一…!」
「何もされてないか?」
「うん。大丈夫」
顔を上げると、目に映ったのは矢一だった。
自分がいない事に気付いて、戻ってきてくれたのだろう。
笑みを浮かべて答えれば、矢一は安堵したように息を零し、鋭い視線を男に向けた。
「連れが迷惑を掛けた」
「いや、大した事じゃないさ。少し残念だけど。好みだから買おうと思って」
「悪いが他を当たれ」
淡々とした会話を一方的に終わらせ、矢一はあかねを連れて足早にその場を離れる。
しばらく無言のまま進んだが、周囲の人ごみがだんだん少なくなると、矢一は噤んでいた口を開いた。
「…すまない。危険な目に遭わせて」
「ううん。私が勝手にはぐれちゃっただけだし。それに腕を掴まれただけだから、大丈夫」
とは言え、矢一が来てくれなかったら男に連れて行かれてたかも知れない。
そう思うと体が強張るのを感じる。
「先の男は買い手だからまだいいが……あれを見ろ」
「え?」
矢一が目配せをする方を見ると、そこには胡散臭そうな中年の男と何かを話している則義の姿があった。
「オーナーと話している男がいるだろう」
「うん」
「あの男は闇市で有力な売人だ。オーナーも贔屓にしている」
「……」
「他にも売買に携わる輩を何人か見掛けている。彼等からすれば、君のような年頃の者は格好の的だ。なるべく傍にいるつもりだが、君も離れないでくれ」
「分かった」
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