氷柱を発生させたのは、当然の事ながら朔姫だった。
こんな事も出来るのだと、あかねは驚いていた一方で、大層不服そうな表情で相手を容赦なく攻め立てている。
「すごい……」
大人かつ異能者である三人と渡り合えている朔姫に感心するも束の間、自身の横で倒れている昶に目がいく。
危害が及ばないように物陰に隠そうと、彼の体を持ち上げようとした。
「!」
目の前に現れたのは、和装の身なりで、顔は目元以外隠されている若い男だった。
「見つけた」
抑揚のない口調でそう呟くなり、男は素早くあかねの腕を掴んで引き寄せ、口を塞いだ。
「んぐっ……」
声を上げる間もなかった。思わず視界に映る朔姫に手を伸ばすが、届くはずもなく、気付くはずもない。
「んーっ!」
必死でもがこうとするあかねだが、男はびくともしない。
次第に無力感に苛まれるが、それでも足掻こうとなおも手を伸ばす。
だが、その伸ばした手もやがては掴まれてしまった。
「すまない。だが、傷付けたりしない」
男は耳元でそう告げるが、あかねは拒絶するかのように、ぎゅっと目をつむった。
「あかねっ!」
状況に気付いた朔姫が名前を叫び、こちらを向いてナイフを構える。
「あかねを離して!」
「拒否。主の命令だ」
瞬時に雹が男を襲うが、軽い身のこなしで全て避けられてしまう。
「主に伝えろ。この娘は頂く」
「あかねっ!!」
届かないと分かっていながら、朔姫は咄嗟に手を伸ばす。
しかしあかねは腕を掴まれて手を伸ばす事が出来ず、またも自分は無力だと思い知らされる。
そんな中、男はあかねと共に朔姫の前から一瞬にして消えてしまった。
「あれは……確か依頼人の」
「あぁ。俺達だけじゃ信用ならねぇってか」
「まぁまぁ。報酬は貰ってるし、任務は成功したんだし、いいじゃないの。ほら、さっさと行くわよ」
一部始終を見ていたのか、朔姫と対峙していた三人組は、話しながらこの場から去って行く。
引き止めようとも思ったが、今度は自分や昶に被害が及ぶ可能性もある為、そのまま背を見送る。
確かな事は、あかねを攫った者と何らかの面識があると言うこと。
橙髪の少女も同じだろう。
――一刻も早く、この事を伝えなければ。
気を失っている昶の様子を見ながら、朔姫は携帯を耳に当てるのだった。
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