桜空あかねの裏事情


「何がだ?」

「彼を追い出せば、更にあかね様の不興を買う事になります。流石の貴方も困るのでは?」

「別に困りはしない。あの年頃の、しかも小娘の機嫌を取ることほど、難しいものはないからな。ほとぼりが冷めるまで、このままでいい」


結祈の適切かつ最もな意見に、ジョエルは大した事ではないと言わんばかりに寄る辺もない。
毎度のことながら相手の意見を聞き入れない彼に、密かに溜め息を零す。


「そうは言いますが、ここ数日話していないのでしょう。いつまでもこのままでは、周囲の人間にも迷惑が掛かるというもの」

「私は迷惑を掛けているつもりはない」

「ですから――」

「結祈の言う通りだよ」


不意に聞こえた声に、二人が顔を上げる。
そこにはいつの間に部屋に入ってきていたのか、厚い書物が並べられている本棚を漁るアーネストの姿があった。


「君がいつまでもそんな態度だと困るよ。特に駿達は気にしてるし。いい加減あかね嬢と仲直りしたらどうかな?」

「元凶のお前に言われる筋合いはない」

「人聞き悪いね。確かに助勢はしたけれど、決めたのはあかね嬢だよ」

「では藍猫の坊やとでも言った方がいいか?」


その言葉にアーネストは目を丸くして、彼を見遣る。


「お嬢さんの情報源はお前と藍猫の坊やの二つ。争いを拒み、穏便に事を運びたがるお前が、あの男の事をお嬢さんに言うはずがない。という事は、残った彼が発端となるわけだ」

「随分と大胆に出たね。証拠はあるのかい?」

「何も。だが何ら可笑しい事ではないだろう。まぁそこそこ思慮深いお嬢さんが、彼の情報だけを鵜呑みにする事はない。差し詰め、お前が助勢と言う名の入れ知恵をしたと、私は見ているが」


告げられた無駄のない的確な見解に、アーネストは降参とでも言うように、肩を軽く竦めた。


「毎回思うけど、その鋭い洞察力には感服するよ。やはり君は勿体無い」


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