黎明館 ジョエル自室
「あの」
「………」
「少しの間、あちらに移動してくれませんか?」
「………」
「掃除の邪魔なのですが」
「………」
「聞いてます?」
「………」
光も溢れる昼下がりでさえ、遮断される暗闇に閉ざされたその空間は、珍しく光が差し込み照らしていた。
その空間を、ここぞとばかりに掃除をしている結祈は、目の前で書類に目を通す部屋の主に呆れながらも訴え続ける。
しかし当の本人は答える素振りどころか見ようとすらしない。
「……感覚どころか、ついに耳までおかしくなったのですね」
「何か言ったか?」
嫌味の一つを零せば、ジョエルはようやく言葉を返した。
「聞こえているなら答えて下さい。そして退いて下さい。そこにいられると、机の下が掃除出来ません」
「私は掃除など頼んだ覚えはない」
「これは日課です。放置すれば衛生上の問題に発展します。大体、貴方は今の時間、図書室にいるでしょうに。さぁ退いて下さい」
頑として譲らない結祈に、ジョエルは軽く溜め息を吐いて立ち上がり、部屋の中央にあるソファに腰掛けた。
「……部屋のカーテンを無理矢理開けておいて、この傲慢ぶり。それ以外の場所を掃除出来るだけ、有り難いと思え」
「何を言いますか。傲慢なのは貴方です。陰気で鬱陶しく無駄に広いこの部屋を、毎日掃除する私に感謝して欲しいぐらいです」
辛辣に言い返すと結祈は、掃除を開始する。
黙々と作業をする彼にジョエルは変わらず書類を相手にしている。
「そう言えば」
しばらくそれが続いた後、結祈は閃いたように、ふと振り返る。
「言い忘れていましたが、彼の様子を先程見てきました。怪我は完治したと判断しても、問題はないかと思います」
「……そうか。では早々に出て行ってもらわねばならぬな」
「宜しいのですか?」
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