大徳高校 教室
「きた……ついにこの日がきたッス」
「なぁ、あかね。瀬々のヤツ朝からあんな感じだけど、どうしたわけ?」
昼休みは過ぎ、授業は五限を迎えて数分。
担当の教師の都合で自習となり、休み時間ほどではないやや賑やかな空間で、昶は尋ねた。
「さぁ……ワカホリが更に重傷になっただけじゃん。放っておけば?」
「それもそうか」
「もう何言ってんスか、二人ともー」
ぶつぶつ呟きながらも話を聞いていた瀬々は、二人の方を向きながら答える。
「今日はあかねっちと俺っちの記念すべき初デートっすよ!」
「うそぉ!?あかね、お兄ちゃん聞いてないぞ!」
「何言ってんの。今日は藍猫屋に行くだけでしょ。それに昶も行くじゃん。忘れたの?」
「分かってるって。冗談だよ」
椅子に寄りかかりながら笑う昶に、どうやら本当に冗談だったのだとあかねは理解する。
「でもよ、藍猫の社員ってどんな感じ?やっぱ瀬々みたいに変人だったり?」
「変人って……昶っち酷いッス!俺達、赤い糸で結ばれてる仲じゃないんスか?」
「え……昶ってそっちだったの?」
「いやいやいや!違う!絶対違う!やめて!」
必死に弁明する昶の様子に軽く笑えば、隣に座っていた瀬々も含みある笑みを浮かべていた。
「とまぁ、冗談はさておき。先輩達はみんな良い人達ばっかッスよ」
「それは瀬々から見てでしょ」
「んー……そうッスけど、少なくともジョエルさんやアーネストさんよりは、ひねくれてないんで」
思った事を素直に言う瀬々の言葉に嘘はないだろう。
だがそれだけで不安や警戒心が全て拭われるわけではないのだ。
それは何も彼を信じていないという事ではない。
未知なるモノに独りよがりの感情を抱くのと同じように、あかねもまた独自の先入観を持っているのだ。
「あー……もしかして、先輩らに何かと聞かれるんじゃないかって、思ってたりしやすか?」
「うん」
察した瀬々に即答すれば、彼にしては珍しく優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫ッスよ。あかねっちは俺の顧客になってるんで、藪から棒に色々聞かれる事はまずないッス」
「そう…なの?」
「何というか、他社員の顧客を取るのは御法度なんスよ。暗黙の了解的な?んで、もし取っちゃったら速攻クビなんスよ」
「……情報屋も大変なのね」
正直な感想を述べると、瀬々は苦笑するどころか、どこか誇らしげな笑みを零す。
それほどまでに、藍猫もといこの仕事が好きなのだ。
「とりあえず実際行けば分かるって事で、あんま深く考えないでいいッスよ」
「……善処はする」
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