桜空あかねの裏事情


それは突然現れたモノではなく、今まで蓄積されてきたモノだった。


「あの子は母さんに愛されている。もちろんそれはあの子だけじゃない。兄貴達も、葵も楓も……みんな愛されている。大切にされている。だからこそ分かるの。私は」

「愛されてないと?」


紡がれるであろう言葉を遮れば、あかねは悲しげに笑みを浮かべ、少し間をおいて深く頷いた。
それを見てジョエルは、不快と言わんばかりに眉を顰めた。


「君は何か勘違いをしていないか。ヨシは周囲が呆れるほどの子煩悩だぞ」

「だからこそだよ」

「?」

「古いしきたりに従って縛られて生きてる兄貴達に対して、私は小さい頃から自由に生きてきた」


あかねは床を見つめながら、床ではない何かを見つめながら言葉を続ける。


「兄貴達が強制的にやらされてたお稽古だって、私が嫌だと駄々をこねたら二度とやらせなかったし、私が悪いことしても本気で怒ることもしなかった。何か相談してもろくに耳を貸さずに、いつもあかねの好きになさいの一言で終わり。今の高校に進路を変えた時もそうだった。母さんはいつも、私の機嫌を損なわないように一定の距離を置いて接しているのだと感じたわ」

「…………」

「まるで赤の他人みたいなの。けれど最近やってきたあの子は、兄貴達と同じ様に惜しみなく愛されてる。それがすごく嫌で、悔しくて……悲しいの」


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