桜空あかねの裏事情



だが足が動かなかった。
あかねは少しだけ振り向く。
いつの間にか左腕をジョエルにしっかりと掴まれていた。


「……どうしたの?」

「――なら」

「え――っ」


聞き取れなかった言葉を聞き返そうとした瞬間、あかねは後ろから物凄い力に引っ張られバランスを崩す。
唐突に感じた浮遊感に倒れると思いきや、一瞬の感覚と言わんばかりにそれは消え、目の前は黒が広がる。
そして顎に何かが触れて自然と顔が上がる。
それがジョエルの手だと気付いた時には、既に視界には彼の顔と逃さないと言わんばかりに、こちらを見つめる紫の瞳しか映っていなかった。


「何もないと言うなら、何故泣いている?」

「っ」


その言葉に呼応するかのようにあかねの目許から再び涙が溢れ、頬を伝って零れ落ちる。


「な…なんでもないって言ってるじゃん!放っておいてよ!」


それは羞恥心か、あるいは屈辱感なのか。
自身の醜態を知られてしまったあかねは拒絶するように、距離を取ろうとする。
そんな彼女にジョエルは顎から手を離すが、左腕は掴んだままであった。


「っ……ひっく………離してよ」

「……何があった?」

「ジョエルには……っ…関係、ない」


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