「ッ……」
不意に頭上から聞こえた声に、あかねはほんの少しだけ顔を上げる。
足元しか見えなくとも分かるその低く響く声は、間違いなくジョエルのものだった。
「うずくまって何をしている。君は昶達と遊びに行く予定じゃなかったのか?」
「…………」
「お嬢さん?」
「……うん。そうだったんだけど、やめた」
不振そうに近付いて来るジョエルに対し、立ち上がって泣いている事を悟られないよう顔を上げる事なく普段通りに振る舞うあかね。
「やめた?昨日は煩わしいほど、騒いでいたというのに?」
「課題やってなかったの思い出して」
ジョエルの問いに、適当にそれらしい理由を答える。
しかし彼は下を向き続けるあかねを見つめて、再び口を開く。
「……何かあったのか?」
明らかに様子が違うあかねの態度に気付かないほど、ジョエルは鈍くはない。
そして相手を気遣いそっとしておく優しさなども当然無く、再度問い質す。
「何も。何もない。ただ遊びに行けなくってつまんないだけ」
それでもあかねは何も言わなかった。
ただ静かに首を横に振って、ジョエルの横をすり抜ける。
「…じゃあ私、部屋に戻るから」
淡々とそれだけ告げて、静かにその場を去ろうとする。
.

