桜空あかねの裏事情



靴を履いて玄関のドアを開けて外に出る。
既に車のエンジンはかけられており、助席には母が座っていて手招きしていた。


「早っ」

「お前が遅いだけだ。ほら、早く乗れ」


棗に促され、あかねは後部座席に座った。


「おはよう、あかね。今朝もまた随分遅かったわね。寝坊したの?」


車に乗り込むと助席から母が振り返る。
艶のある長い黒髪を結い上げ、ややつり目の黒い瞳で微笑みながらあかねを見ていた。


「うん。そんなとこ」

「困った子ね。もう高校生なんだから、その癖直しなさいよ」

「……善処する」


話しに区切りがつくと同時に、棗が運転席に座りシートベルトを着用する。


「さて。どこぞの寝坊娘のお陰で、時間が削られたからな。少し飛ばすぞ」

「あかね。シートベルトなさい」


二人の言葉に、あかねの表情は途端に歪む。


「……高速使うの?」

「渋滞してたらな」


淡々と言う棗を睨み付け、だから自分で行くって言ったのに。と呟いて悪態をついたが、それに構わず車が動き出したので、あかねは渋々シートベルトをつけたのだった。

.