桜空あかねの裏事情


「まずはこれ」


差し出されたのは一冊の本。
受け取って題名を確認すると、それはあかねが以前棗に要求した本だった。


「棗さんから渡してくれって、頼まれて」

「前に兄貴に頼んだんだ。連休中に取りに行く予定だったけど行けなくなっちゃって」

「そうだったんだ」

「うん。そうなの」

「…………」

「…………」


重苦しい沈黙に包まれる。
あかねからすれば、用件をさっさと済ませ早くこの場から去りたいところだ。
しかし槐は何とかして話そうと顔を引き攣らせながらも、必死に話題を探そうとしている。


「あ、えと……その、…」

「…制服なんだね」

「え?」


槐は首を傾げる。


「服。連休の最中なのに、珍しいと思って」

「あ……う、うん。今日朝から部活だったの。って言っても三時間ぐらいだったんだけど。終わってから、そのまま来たから」

「そう」

「あかねちゃんは何か部活やってるの?」

「やってないよ。色々と忙しくて」

「そ、そうなんだ。…バイトとか?」

「んー、まぁそんなとこ」

「そっか」

「うん」

「…………」

「…………」


チーム・オルディネのリーデル候補として、異能者と関わっているとは言えるはずもなく、また言う必要もなく、曖昧に答えれば再び沈黙が訪れる。

昶と話している時も、言葉が続かない事もあった。
だがそこに気まずさは無かった。
またジョエルとの会話は嫌気が差したり、疲れる事もただあるが、あかねにとって今ほど会話を苦痛だと思った事はなかった。

――こっちから話題を出してみたけど
ーーやっぱ続かないか。

様子を伺うように見つめている槐を見て、苦手意識を持っているのは、何も自分だけではないのだと実感する。


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