桜空あかねの裏事情



昶と別れた後。
あかねはすぐに一階の客間へと向かった。


「………」


幸い、途中で誰かに会うことは無かったが、もし会っていたのなら普段の彼女を知る者は驚くことだろう。
それほどまでに冷ややかで、思い詰めた表情をしていたから。

――こういう日が来る事は、
ーー分かってたつもり。でもやっぱ最悪。


客間の扉の目の前で、ドアノブに手をかけることもなくあかねは立ち尽くす。


――何であの子が来るんだろ。
ーー話すこともないし、会いたくもない。
ーーしかも気を遣ってるのか知らないけど
ーー前の名字名乗ってるし、嫌になる。


もしかして何か特別な事情があったりするのか。
或いは連絡では言えない言伝などか。
あかねは思考を膨らませる。

――もしあるとするなら、母さんからだろう。
ーー兄貴は私が避けているのを知ってるから有り得ない。

――ああ、でも。仮に母さんだったとしても、
ーー私に言う事なんて何もないか。
ーー母さんは私の事なんてどうでもいいはずだろうし、むしろあの子の方が大事なんだから。


.