そう言って結祈は階段を降り、その場から去って行く。
一方であかねの表情は、依然として変わらない。
「……なぁ」
無表情になりつつある彼女にとりあえず声を掛けたものの、話をどう切り出していいか分からず、昶はそれきり口を閉じてしまう。
尋ねてきている客人が、あかねにとってどんな存在なのか。何を意味するのか。
その人物が何者なのかさえ知らない自分が、迂闊に聞いていいものなのか迷ったからだ。
心中で葛藤していると、しばらく沈黙が続く。
「ごめんね」
どれくらい経過したのかは分からない。
沈黙を破ったのは、突然の謝罪。
それは確かにあかねが紡いだ言葉だった。
「何だよ急に…」
「気を遣わせちゃって。私、いつもと違ってたでしょ」
まるで見透かしているかの言葉に対し、昶は肯定するかのように沈黙してしまう。
「悪いとは思ってる。でもあの子が絡むと、やっぱそうなっちゃう」
「…あの子って?」
苦笑しながら弁代するあかねに、核心を突くように疑問を投げる昶。
すると彼女は再度苦笑する。
「あの子はあの子。私が今一番会いたくない子」
自分を真っ直ぐ見つめる瞳と共に告げられた言葉は、この静寂を保った空間も相まってやけに耳に響いて、昶には重く感じた。
.

