桜空あかねの裏事情



母やジョエルが知っていた“模倣”という能力。
それが自身の異能である事は把握していたが、一体何の役立つのか、どのような時に使えるのかなど、単純な事さえ知らない。


「言われてみれば、あかねの異能って珍しいよな」

「それを言うなら、昶のだって」

「そうだな。結論からして君達の異能は、どちらも実例が極めて乏しく、恐らく希少に属するものだろう。故に他の異能者に比べ狙われる可能性も高い」

「狙われる?」

「認められつつはあるものの、異能者は未だ忌避の対象だ。その上、一般人を守る法律があっても異能者を守る法律などはない。昔に比べれば犯罪は減少したとはいえ、無くなったわけじゃない」

「そうですね…」


初めて養成所に行った時も、駿本人から忠告され気になってジョエルに聞けば、同じような事を言われたのを思い出す。


「未成年の異能者は、表面的には保護の対象となってはいるが、誘拐されて無事で帰ってきた者はほんの一握りだ。誘拐された異能者が、どうなるかは詳しく知らないが、一例として挙げるなら闇市で売られる」

「闇市?」

「不定期に行われる非公開の市場だ。そこでは主に密輸品などの売買が盛んだが、異能者が売られている事も少なくない」

「なんだよそれ……ただの人身売買じゃねーか」


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