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「はは……不意打ちとはいえ、ちょっとまずいかなぁ……これは」
敵の気配が遠退き、完全に消えたのを確認すると、男は路地裏から顔を出して様子を伺いながら呟く。
左手で抑えている脇腹を見る。
致死量ではないものの、思った以上に血が流れ出ており、これ以上歩く事は無理だと悟る。
「……ここで終わり、か…」
――チームと一族を滅ぼされて早十二年。
――穏やかな生活から一変し、追われては逃げ、逃げては追われる日々だった。
――そこに当然の事ながら安寧などなく、親切にも俺に味方した人も、呆気なく死んだ。
――それでも俺は生きている。
――いや、生きようとした。
――例え安らぎとはかけ離れた人生でも、生きる事が出来ればいいと思った。
――報復や復讐に身を焦がし討たれ死ぬよりは、俗世から離れてでも生きていた方がいい。
――それが自分を庇って死んだ者達へ、そして死んだ仲間達への僅かな贖罪になると思っていたから。
――だがそれも、今日までかも知れない。
――まさかあんな小さい子供まで攻撃してくるなんて思わず、まともに受けてしまった。
男は警戒していなかったわけでは無かった。
だがあんな子供を手に掛ける程、非情にはなれなかった。
しかしその結果として、思わぬ痛手を負ってしまった。
自分のその甘さ故に、身を滅ぼし掛けているのは否めない。
「はぁ……ッ…このまま死ぬのは……悲しいね…」
意識が朦朧としてきた所為か、柄にもなく本音が口から零れる。
何も出来ぬまま、残せぬまま
死ぬのは嫌だった――。
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