姿を見せるのは得策ではないと悟ったギネヴィアは、耳を潜めながら襖からそっと手を離す。
「仕方ありません。頭首様の御命令ですから」
「チッ……あのジジイ。余計な事しやがって。さっさとくたばれ」
「そんな事仰ってはいけません。頭首様は陸人さん達のお祖父様なんですから」
「そんなの関係ないし!ってかなんで義姉さんは何も言わないのさ!!嫌じゃないわけ!?」
「それは………本音を言ってしまえば、陸人さんの仰る通りです。ですが私は、菊地家の嫁としての役目を果たしていません。そんな私が言える事などありませんから」
義姉、嫁。
その短い単語で、ギネヴィアはある事を思い出す。
以前陸人と二人で話す機会があった時、兄に嫁いだ義姉の話をされた事があった。
普段他者を滅多に褒めることのない陸人が、過剰なほど褒めていたので記憶に残っていた。
その時は余程気に入っているのだろうか程度に思っていたが。
今彼が話している相手は、その義姉で間違いないだろう。
「嫁としての役目って何なのさ。次期頭首になる兄さんと愛し合って支え合って、楽しいときも辛いときも生涯を供にすることじゃないの?それなら義姉さんはちゃんとやってるじゃん」
「…………」
「優しくて美人で、頭も良くて……こんな素敵な人を嫁に貰えた兄さんが羨ましい反面、義弟として誇りに思うよ」
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