桜空あかねの裏事情


皮肉混じりの言葉の中にある忠告と自覚の促しに、黙したままジョエルを見つめる。
その強い視線に彼もまた視線を絡めるが、互いに口を開く事はなく周囲の喧騒の中続く。
しかしそれは一瞬とも言える時間で、背後から結祈が歩み寄ると、好機と言わんばかりにふらりとどこかへ歩いて行ってしまった。


「すみません。遅くなりました」


詫びを入れながら、アーネストの近くにある席に座る。


「結祈もお疲れ様」

「ありがとうございます。あかね様やアーネストさんには長らくお待たせしてしまいました」

「そんな事ないよ。確かに時間にしてみると長かったかも知れないけど、私達は楽しく話していたから」

「うん。それにワカホリの瀬々もいたし」

「ワカホリ?」

「ちょっとあかねっち!ワカホリって何スか!?」


聞き慣れない言葉を結祈は口にするが、それを凌ぐ瀬々の声に掻き消される。


「うるさい」

「だってあかねっちが変な事言うからじゃないッスか」

「言ってないし。それより挨拶」

「えー……後でちゃんと教えるんスよ?」


聞く耳持たず、あかねが手で払う仕草をすれば、瀬々は渋々、結祈の方を向いた。


「申し遅れたッス。瀬々悠と言います。あかねっち達のお友達で、こう見えて藍猫の新入社員ッス」


言い終わると同時に、いつの間にか用意されていた名刺を差し出すと、結祈は微笑みながらそっと受け取る。


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