3階 ジョエル自室
「やれやれ」
繰り広げられた激しい口論の末、ついに戦意喪失したジョエルは自室に戻ってソファに深く腰掛け、溜め息をついた。
「疲れている割りには、楽しそうに見えたけど」
茶化すように言うアーネストに、目線を合わさずにジョエルは話を続ける。
「始めはな。だがあんな女に手間取っている程、暇ではない」
「暇ではない……ね」
彼の言葉を繰り返してアーネストは思案する。
ジョエルを筆頭に彼等が所属するチームは過去、栄華を極めたチーム・オルディネ。
しかしその栄華も今や泡沫のごとく消え去り、先代が急逝して以来、未だ頂点が空席のまま解散寸前の危機に直面している。
異能者社会では、チームには頂点は必ず存在している。
存在する事でそのチームの意義を見出だし、所属している者を護っているのだ。
所謂、象徴のようなものだ。
それが不在である時点で、そのチームに存在意義が皆無と見なされ、また所属する者にとっては後ろ盾が無いのと同義となり、チームにおいて大きな痛手となる。
しかしジョエルは所属している異能者達の中では間違いなく上位で、頂点に足る実力者である。
それなのに頂点の座に就かずにいるのは不明だが、それでも頂点がする仕事を全て引き受けているに違いない。
そうでなければ、深刻な人材不足と頂点の不在で解散寸前で追い込まれつつあるオルディネが、今も存在しているはずがないのである。
それが自分が持てる全ての情報をつなぎ合わせた、アーネストの結論だった。
「ジョエル」
「何だ?」
「聞きたい事が幾つかあるんだけれど……いいかい?」
「聞きたい事、ね。差し詰め、何故私がリーデルにならないのか。朔姫や陸人というまだ未熟な者達ばかりを所属させるか……と言ったところだろう」
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